第二部各論 第1章15節 せん妄について解説。突然、認知症が悪化することはありますか? #認知症 #せん妄 / delirium

01:08 せん妄の症状
02:59 せん妄が起きやすい人
04:00 よく言われること、治療

今日は「せん妄」について解説します。

「せん妄」とは身体疾患で、高齢者の方の意識混濁のことを言います。

「突然、認知症が悪化しましたか?」
「最近、なんだかおじいちゃんがイライラしているんですけど」
「手術後に突然変になってしまったんです」
「ICUに入って変になってしまったんです」
よくこのようなことを心配されますが、これを「せん妄」と言います。

今回は、どのようなメカニズムでせん妄が起きるのか、どのような治療をしていけば良いのかについて解説します。

■せん妄の症状

せん妄の症状は、「意識があるとき」と「意識がないとき」の中間のようなものです。
ぼんやりしているというか、ぐちゃっとしています。夢を見ているときのような感じです。

注意力が落ちていたり、記憶ができていなかったり。記憶できているとしてもおぼろげだったり、認知力が低かったりします。
自分のことがわかっているようなわかっていないような、相手のことがわかっているようなわかっていないような。
見当識障害でここがどこかわからない、転んで骨折してしまうといったことがあります。

意識がある・ないの中間なので、このようなことが起きてしまいます。

術後せん妄を見慣れている外科の先生は、意識がかなり混濁したものだけをせん妄と呼んでいますが、実際に認知症の治療をしている先生はよくご存知ですが、結構軽いせん妄があります。

認知症が突然悪化したように見えるのです。
他の症状は普通なんだけれど、なんだかスプーンの使い方が下手だ、なんだか歩き方がおぼつかないなどです。
これが実はせん妄だったという形で、体の病気を調べると出てくることがあります。

ですから、せん妄は「これだ」というカテゴリーではなく、ある程度スペクトラム、ファジーな概念です。

■せん妄が起きやすい人

・高齢者
体の弱い人、認知症の人

・身体疾患
体の病気がある人。体のダメージがあるときに意識が混濁してしまいます。

・アルコール、薬物
元々お酒をよく飲む人、薬物乱用をしている人、睡眠薬を飲んでいる人は意識混濁がしやすいです。
このような人は術後せん妄になりやすかったりします。
ドラッグなどで意識を飛ばすような習慣があると、ぐにゃっとしやすいのです。しかもスペクトラムな意識混濁を起こしやすいと思います。

■よく言われること、治療

よく言われるのはこのようなことです。

Q. 突然、認知症が悪化したみたい?
Q. 最近イライラしているようだけれどなぜ?
この2つは僕の外来でもよく聞かれます。

Q. ICU、術後に…?
こちらは一般的なせん妄です。

このような場合、家族の意見を流すのではなく、「身体の病気をもう一度探し直す」ことが大事です。

意識混濁をしているので、痛い、熱があるなど自分で言ってくれません。ですから、頭の上からつま先まできちんと探すことが大事です。

よくあるのはこのような問題です。

・心、肺、肝臓、腎臓の問題
・感染症の有無、骨折
・アルコール、薬の飲み間違い

骨折は意外と見落としがちで、骨折していることが結構あります。ちょっとしたつまずきで骨折をし、その痛みからせん妄が起きていることがあります。体のいろいろなところが痛いと本人も気づかなかったりしますので、身体所見をしっかり取ることが大事です。

入院中の方ならば看護師さんがよく見てくれていますし、家族も「普段より右足をかばっています」というような言い方をしますので意外とわかるのですが、見落とさないようにします。
家族が言わない時にはこちらから質問することも大事です。

他によくあるのは、隠れてお酒を飲んでいる、薬の飲み間違いです。

また、「てんかん」を見逃さないことも重要です。
全身が痙攣するような大発作だけを「てんかん」だと考えている家族の方が多いのですが、そうではなく「部分発作」といって一部分だけがビクビクとなることもあります。記憶が飛んでいるパターンもあります。これも見逃さないことが大事です。

せん妄は抗精神病薬で治すと勘違いされている方もいらっしゃいますが、あくまで抗精神病薬は、せん妄による意識混濁の際の興奮を抑えてあげる薬です。
抗精神病薬で治すのではなく、原因となっている「体の病気」を見つけて治すことが重要です。

もちろん、今治療中だとか治せないものもあるので難しいのですが、原則は「身体の状態異常を探す」ことを中心にして、薬はできるだけ使わない方が望ましいです。

身体の治療をしながら、せん妄が起きているので薬を使うということもありますが、体の病気をまず見つけてからというのが原則です。

「せん妄」という言葉を聞いたことのなかった人は、頭の隅に置いていただければと思います。
この動画を見ている方は40代、50代の方が多く、親の介護を経験されている方も多いと思います。せん妄のことを頭の隅に置いておくと介護の役に立つのではないかと思いますので、今回動画にしました。

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初めて家族を病院に連れていく人向け。認知症の治療の全体像を解説します
https://youtu.be/pHtoMfPZAxI

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『精神科医がこころの病気を解説するChとは?』
 一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
                 早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版
倫理規定について https://note.com/mentalyoutubers/n/nb130991f3fa4

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