ウクライナ侵攻 停戦交渉で一定の前進 キエフの軍事行動縮小も

トルコで行われたロシアとウクライナの停戦交渉が終了しました。ウクライナ側はNATOへの加盟を断念すると伝え、ロシア側はキエフなどで行っている軍事行動を縮小することなどを表明しました。

■ウクライナ軍が新たに都市を奪還

住民が避難しているさなかにも、ロシア軍の攻撃を受けたイルピン。道路の真ん中に着弾する様子が撮影されています。首都キエフの北に位置し、多くの住民が川を渡って避難を余儀なくされた町です。映像からは、橋が破壊されているため仮設の足場で市民が川を渡っているのが分かります。このイルピンで新たな動きがありました。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領
「イルピンは解放されました。素晴らしい」

ウクライナのゼレンスキー大統領がイルピンをロシア軍から奪還したと発表したのです。28日にウクライナ国防省が公開した映像では、町は瓦礫だらけで人の姿はほとんどありませんでした。町に残った老夫婦はウクライナ軍にこう話しかけます。

イルピンの住民
「神さまが私を守ってくれている。私の家に入って下さい。コーヒーがあるから」

■一方、依然として激しい攻撃が続く都市も・・・

日本時間29日午後3時頃、南部ミコライウでは州の庁舎が攻撃を受けました。建物の中央には大きな穴が開いています。

ミコライウ市長
「建物の半分が壊され、私の市長室にも当たりました。被害ですが、奇跡的に多くの人が脱出しましたが、8人はがれきの中に残っているようです」

ウクライナ非常事態省は7人が死亡、22人がけがをしたと発表しています。
ロシア軍の無差別攻撃で町の破壊が進む南東部のマリウポリでは、子ども210人を含む5000人近くが死亡した可能性が明らかになりました。アパートは大きく破壊され、向こうの景色が見えています。自宅だったのでしょうか、少女は壊れたアパートを見つめていました。

マリウポリの住民
「私は自分の物を運んでいます。他に何をすべきですか。何も残っていません」

住民は運べるだけの荷物をまとめてアパートを後にしました。
避難していた住民が空爆で生き埋めになった劇場の様子も公開されました。この劇場は敷地にロシア語で「子どもたち」と大きく書かれていたにもかかわらず、16日にロシア軍の空爆を受けました。内部は壁や柱が焼けていて、爆発のすさまじさを物語っています。マリウポリ市はこの劇場で300人以上が死亡した可能性があると発表しています。

■トルコ・イスタンブールで4回目の対面停戦交渉

富永高史 記者
「すでに多くのメディアが集まっています。こちらの会場の中で4回目の停戦交渉がまもなく行われます」

トルコの仲介によって日本時間の29日夕方から、対面による停戦交渉が始まりました。

トルコ・エルドアン大統領
「早期に停戦と平和をもたらすことは有益だ。協議で具体的な結果を出す時期にきた」

停戦交渉の場に姿をみせたのは、ロシアの大富豪でプーチン大統領に近いアブラモビッチ氏です。彼をめぐって気になる報道があります。

■米紙「ロシア強硬派が交渉参加者に“毒盛った”可能性」

「アブラモビッチ氏とウクライナの交渉団に中毒症状の疑い」という見出しの記事です。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは28日、アブラモビッチ氏とウクライナの交渉団が有毒物質による攻撃を受けた可能性があると指摘したのです。両者は3日午後、首都キエフで非公式な協議に臨んでいたといいます。

アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル報道
「アブラモビッチ氏らは涙が止まらなくなり、目の充血、顔や手の皮膚がむける症状が出た」

症状はロシア側・ウクライナ側双方にあらわれ、翌朝まで続いたということです。報道では、ロシアの強硬派によって毒が盛られた可能性を指摘しています。ウクライナのクレバ外相はロシアとの交渉に臨む時には“ある助言”をしていると話しました。

ウクライナ・クレバ外相
「ロシアとの交渉に行く人は、何も食べたり飲んだりしないように助言しています。また、できるだけ物に触らないことです」

事件を調査したイギリスの調査報道機関「ベリングキャット」は化学兵器による中毒症状の可能性が高いとした上で、こう言及しました。

イギリスの調査報道機関「ベリングキャット」
「命を脅かすには不十分な量で、被害者を怖がらせる目的だった可能性が高い」

ただ、ロイター通信はアメリカ政府高官の話として症状は「環境的な要因」であり、毒による影響ではないとしています。

■軍事ジャーナリストの見解は「ロシア側にメリットない」

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏
「毒物を使うというのは、ロシアのFSB(連邦保安庁)の常套手段」

黒井氏は毒物をロシア側が使ったことは過去に何度もあると指摘。ただ、現時点で分かっている情報からはロシア側が犯行に及ぶメリットはないと考えています。

黒井氏
「(毒を盛って)何か効果があるかと考えると、あまりない。むしろロシア側にとって疑われるということなので、ちょっと理由がわからない」

■今回の交渉で戦争終結に向けて進展は?

4時間に及んだ29日の停戦交渉について、ウクライナ側の交渉団は・・・。

ウクライナ・ポドリャク大統領府長官顧問
「最も大切な点は、ウクライナの国際的な安全保障に関する合意だ。ウクライナが求める戦争終結の形だからだ」

交渉ではウクライナ側がNATOへの加盟を断念することなどを提案したということです。専門家は安全保障で合意にいたれば、大きな前進だと評価します。

畔蒜泰助 笹川平和財団・主任研究員
「ロシア側からするとウクライナのNATOからの中立化の問題であり、ウクライナ側からすると、その場合にウクライナの安全保障がどういう形で担保されるかということ、これはウクライナが一定の軍事力をもちろん保有することと同時に、海外の主要な国々がウクライナの安全を保障するための何らかの国際的合意。このフォーマットに関して、もし何らかの合意が出されるのであれば、非常に大きな交渉上の前進」

一方、ロシア国防省は停戦交渉を進めるため「首都キエフと北部のチェルニヒフ方面での軍事活動を大幅に縮小させる」と表明しました。

(29日23:51)

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