入管法と移民について考える

2021年の入管法改正案について、弁護士の永井康之先生に解説していただきました。
(本ビデオは、2021年4月4日に開催したオンラインイベント第3部の収録版です)
  
【内容】
00:40〜 永井康之弁護士のプロフィール
02:10〜 そもそも「移民」「難民」とは?
《要点1》"日本を選んだ理由(なぜ日本に来たのか?)" しか問わず、 "母国を離れた理由(なぜ母国に住み続けないのか?)"を問わない場合、そもそも「移民」か「難民」かを判断するのは難しくなる。
 
06:00〜 「移民」「非正規滞在」の捉え方について
《要点2》オーバーステイ(Undocumented)は犯罪ではなく、罰金を払えばOKという国もある。
 
13:00〜 日本が「非正規滞在者」に対して厳しくなった歴史的経緯
《要点3》戦後から1989年までは、外国人(朝鮮半島や台湾の出身者)と日本人の境界が曖昧だった。在留資格がなくても、居住地の自治体で「外国人登録」はできていた。偽造パスポートで入国した場合でも、5年以上犯罪歴がなければ時効になっていた。
《要点4》1989年の入管法改正で「不法就労助長罪」ができ、在留資格のない人を雇用した企業は逮捕されるようになった。
《要点5》さらに1999年の改正で、在留資格のない全ての人は犯罪者となった。
《要点6》2012年の改正で、各自治体での「外国人登録」制度が廃止され、国が外国人の情報を一元的に管理する「在留管理制度」になった。→ 在留カードを持っていない人は住民サービスが受けられない・国民保険にも入れない・(子どもの場合)教育も受けられないことになった。
 
21:00〜 2021年の入管法改正について
21:30〜 「監理措置」の新設
《要点7》保証金を上限300万円納め、被収容者が逃亡した場合は没収される。
《要点8》「監理人」は、被収容者の生活状況を届け出る義務を負い、もし逃亡された場合報告しなければ罰則を受ける。
《要点9》監理措置の導入により、現在の「仮放免制度」は縮小される。「仮放免制度」における「身元引受人」には、生活状況の届け出義務も、逃亡された場合の罰則もないため、被収容者の家族や弁護士、支援者、元雇用者などが引き受けているが、「監理人」になると法的義務や刑事罰を受けるリスクが発生するため引き受け手が少なくなることが予想される。
《要点10》監理措置の元で就労可能なのは、退去強制令状が発付されていない人のみ(収容された後に審査期間等を経て、通常2ヶ月程度で退去強制令状が発付される)。監理措置で社会に出ても、実際に就労が許される人は非常に少ない。→ 家族や支援者に依存した生活(食糧供給等)しかできない。
《要点11》監理措置で社会に出ても、国民健康保険には入れない。社会保険の被扶養者にもなれない。
《要点12》日本は「全件収容主義」のため、入管法違反の人はその理由を問わず全て一旦は収容される。ただし例外として、たとえば強制送還が現実的でない外国籍の人(日本生まれの外国籍若者など)が軽犯罪を犯した場合、収容されずに手続きだけが進み、最終的に「在留特別許可(在特)」が与えられる場合もある。
《要点13》これまで仮放免者の違法就労は、場合によっては見逃されていた(入管が厳しく取り締まれない事情もあった)。しかし監理措置のもとでは、違法就労を見逃すリスクも「監理人」が負わなければならない(=監理人のなり手が限られる)ため、被収容者の状況は厳しくなる。
 
35:20〜「送還忌避罪」の新設
《要点14》パスポート申請の命令ができ、従わない場合は刑事罰を課せられる。また送還に協力しない人にも刑事罰を課せられる。
《要点15》パスポートの期限が過ぎている人の送還は受け入れない国がある(たとえばイラン、以前のブラジル、ナイジェリアなど)。その国出身の人達は、パスポート再発行の手続きをしなければ強制送還されなかった(入管がパスポート再発行の強制まではできなかった)。
《要点16》強制送還を頑なに拒否(または回避)し続ける人たちには、それ相応の事情があることが多い。たとえば、母国で迫害を受けて逃れてきた人の場合、母国の大使館にパスポート申請をしたら政府に自分の所在がバレてしまうので、命の危険にさらされる可能性もある。
《要点17》刑事罰をつくっても、長期収容問題の解決にはつながらない。送還先の相手国ときちんと調整し、送還後に母国で生活できるような手立てをつくる OR 日本に留まり生活するための手立てをつくる、いずれかが不可欠ではないか。
 
41:30〜 収容における司法判断の有無と国際的批判について
《要点18》在留資格が切れた人・軽犯罪を犯したが裁判にはならなかった人・1年以上の実刑判決を受けた人などに対しては退去強制手続きがとられ、原則全員が収容される(全件収容主義)。しかし実際には、例外と認められて収容されない人もいる(日本生まれ、日本人の配偶者など)。その判断は入管の裁量によるため、国際的には「収容する要件が必要(その人が収容されるのは妥当かどうかを裁判官が決める必要がある)」と批判されている。
《要点19》裁判官が収容の是非を判断した場合でも、法律で収容期間の上限を決めるべき。(日本は裁判官の判断もなく、収容期間の上限もない)

45:30〜 「補完的保護」の創設
《要点20》これまでは、難民申請しているけれど条約難民の条件には当たらない人に対し、"人道的な配慮"として「在留特別許可」が出されていた。しかしそれは法的な決まりではなく、入管の裁量で行われてきた。それを改め、法的ルールを決めて申請もできるようにしようというのが「補完的保護」制度。
《要点21》しかし、日本ではそもそも難民認定されにくい国籍がある。たとえばトルコ出身のクルド人は他国では難民認定率が高いが、日本では一人も認定されていない。その背景には、日本国とトルコ国との友好関係上、難民認定(=国家に対する非難)をしにくいという事情がある。その結果、トルコ国籍者は日本にノービザで入国できるが、難民認定はされにくい現状になっている。
《要点22》また、日本における条約難民の認定審査では、政府から迫害対象になっている証拠(いわゆるエリート/選ばれし者である証拠や逮捕状など)が必要。一般人も含め広く迫害されている状況下から逃げてきた人たちには当てはまらない。
《要点23》日本独自の難民認定基準が依然厳しい中で、「補完的保護」の対象となる人がどれほどいるのか。むしろ入管の裁量がなくなり、曖昧な基準で「在留特別許可」が与えられていた人たちさえも切り捨てられることにならないか。逆に保護の範囲が狭まるのでは?
《要点24》経済的な理由で入国した移民を管理する「入国管理制度」と、難民を認定・救済する法律や組織を分離した方がよい。
 
55:20〜「難民申請」について
《要点25》原則として、難民は強制送還してはいけない。よって難民申請中の人(審査中の人)も強制送還されないことになっている。しかし新しい制度では、2回目の申請で難民認定されなかった人は難民ではないと判断され、強制送還の対象となる。
《要点26》現在の難民認定方法に問題がなければ、2回の審査で一定の真偽が図れるかもしれないが、現状で申請回数に制限を設けるのは人道上問題がある。
 
01:01:00〜 質疑応答
 
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【参考HP】
入管法改正の反対署名(移住連HP)※2021年4月18日まで
https://migrants.jp/news/voice/20210223.html

出入国管理政策懇談会(出入国在留管理庁HP)
http://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/nyukan_nyukan41.html

最近の入管法改正について(出入国在留管理庁HP)
http://www.moj.go.jp/isa/laws/kaisei_index.html

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本イベントでは、
第1部:ドキュメンタリー「面会報告〜入管と人権〜」(メ〜テレ制作)上映
第2部:入管での面会支援活動をされている任意団体「フレンズ」代表 西山誠子さんの話
をお送りしました。
(いずれもYouTube非公開です)
 
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