Euro Hands

for the Fukuoka EU Association Magazine "Twelve Stars" nº43
このCMも見て下さい:http://youtu.be/j7y0AUNr3Uw

 EUは実現途上のユートピア    

 この冬パリの書店をのぞいてみると、ヨーロッパ連合(EU)を扱った本は殆どがEUに否定的だった。5年前は逆だった。そこで今回は、希望と不安を表現する2つのCMを紹介しよう。
 1989年の ベルリンの壁崩壊はヨーロッパ共同体(当時)にとって象徴的な勝利だった。ソビエトを中心とした共産圏の解体はヨーロッパの勝利を意味し、当時のヨーロッパ連合は、希望、成功、そして消費社会を体現していた。
 その例としてまずドイツのCM(2004年)をご紹介しよう。これは冷戦時代の劇的瞬間の一つをユーモアたっぷりに味付けしたCMだ。それは1963年に当時のアメリカ大統領ケネディーがベルリンで行った演説で、ソビエトの軍事介入に対して、西ドイツ国民を安心させるために彼はドイツ語で「イッヒ・ビーン・アイン・ベルリナー(=私はベルリン市民だ)」と宣言した映像が、CMでは世界的に有名な語学学校ベルリッツのための<ネタ>になっている。
(写真 ①)
①「2000年前のもっとも名誉ある一言とは『キヴィス・ロマヌス・サム=我はローマ市民なり。』でした。今日の自由世界でもっとも名誉ある一言とは『イッヒ・ビーン・アイン・ベルリナー(=私はベルリン市民だ)』なのです。」「わずかなレッスンですぐに成功。初心者のためのドイツ語。ベルリッツ。」
http://youtu.be/j7y0AUNr3Uw
このCMは、わずか10年間でヨーロッパが冷戦時代を過去のものにし、消費社会が到来したことを示している。そして現在はユーロ危機が毎日のように新聞の一面を賑わせている。そこで今度は、ヨーロッパについてのあいまいなメッセージの例として「ユーロの手」というCMを紹介しよう。1999年のユーロ導入の際に制作されたCMである。
(写真 ②)
②ラップ風のリズムに乗って、若者たちがボディー・ランゲージを披露している。まさしく腕と手と指によるダンスのようだ。この4人のうちの一人だけが白人、つまりもともとのヨーロッパ人である。 CMの最後にその手は形を変えて、ユーロのロゴが現れる。ロゴには「ユーロ、ヨーロッパ連合があなたの手に」というコピーが付いている。
http://youtu.be/KSXBIuz0Fts
メッセージは明確だ。ヨーロッパとは多層的で民族的に多様なルーツを持つことが示されており、ヨーロッパは人種差別を受けいれず、肌の色がどうであれ、世界中のすべての人々に開かれている、また、ユーロもヨーロッパもこれからみんなで築いてゆくべきものだと訴えている。
だが、ヨーロッパの多くの国ではポピュリスムと外国人排斥が勢力を増しているのが現状だ。多くの若者は「みんな平等」というメッセージを受け取るだろうが、移民に対する根拠のない恐怖をさらに強める者もいるだろう。例外的な成功と現在の憂慮すべき危機との間で、EUは実現途上のユートピアに留まっているのである。

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