
近鉄30000系電車(きんてつ30000けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道(近鉄)が保有している特急形車両である。建造費は1次車7編成(28両)で27億円。
老朽化した10100系「新ビスタカー」の後継車両として1978年(昭和53年)に登場した。
日本では、新幹線100系電車登場まで唯一、鉄道車両で2階建て車両を組込んで運行していた近鉄特急「ビスタカー」の3代目にあたる。登場時は10100系「新ビスタカー」と区別するため「ニュービスタカー」と呼ばれていたが、「ニュー (New) 」と「新」では意味が同じでこの区別方法はおかしいため、のちに「ビスタカーIII世」と通称されるようになった。更に後述する更新工事で「ビスタEX(ビスタ・エックス、Vista EX)」に改称されている。
デビュー間もない頃から南大阪線系統や湯の山線を除く特急運転区間で運用された。
1988年に21000系「アーバンライナー」が登場するまでの間、近鉄の代表的な特急であり、近鉄特急のCMでは12200系2両と併結した6両編成での映像が多く使われた。また、当時の国鉄監修時刻表の広告をはじめ、近鉄各駅のパンフレット置場等に当該系列のイラストやビスタカーのV字マークが使われた。
1979年に鉄道友の会ブルーリボン賞を受賞した。
30000系の開発にあたり、登場の前年より調査が行なわれた。これに関連し、12400系が30000系の構想を念頭に置きながらデザインされた。また、近鉄の赤尾取締役と池田車両部長(当時)が欧米を視察して実地調査を行なった。構想段階当初から伊勢志摩観光特急用として華やかさを持たせたい、そのために階上席を多く設置したい(階上席を多く設置する別の理由として、当時の特急券のコンピューター発売システムによるネットワークにはめ込むために、1両あたり60名以上の定員を持つという条件が示されていた)、という考え方があり、そのため当初は全車ハイデッカー仕様で考えられた。しかし、いざモックアップを制作したところ、フラットカーに乗っている感覚とあまり変わり映えがしないのではないか、との見解がもたれ、またハイデッカー車であっても階段は必要であることから、中途半端を嫌って純然たる2階建で設計することになった。
10100系は、一部の先頭車両が非貫通構造であったことから他系列編成とは非貫通車寄りには連結できないために運用上の自由度が制限される問題があった。また製造当時の運行上の中心であった名阪甲特急(ノンストップ特急)が東海道新幹線の開業によって衰退し、代わって伊勢志摩方面を中心とした停車駅が多い乙特急運用が増えたことから、10100系独特のちどり状の扉配置に加えてダブルデッカー構造ゆえに人の動きが滞留して乗降の際に時間が掛かることも問題になった。それゆえ、30000系の先頭車は全車貫通扉式となり、扉配置も見直され、車内は伊勢志摩観光特急用にアレンジされた。
後継である22000系「ACE」、23000系「伊勢志摩ライナー」が登場し、これら後発の特急車より車内設備の見劣りが顕著になったことや折しも竣工から約18年が経過して車体更新時期に差し掛かったため、1996年(平成8年)から2000年(平成12年)にかけて大幅なリニューアルが実施されることになった。
改造の検討は1994年から開始された。汎用特急に埋没していた30000系をリゾート特急として蘇らせることになり、それにふさわしいデザインを目指すことになった。そこで、リニューアルコンセプトを「ビスタカーの魅力の再発見」、デザイン上のキーワードを「Elegance & Resort」とした。
今回の改造にあたり、新造車並みにデザインチームを立ち上げ、スタッフには昨今の近鉄車両の内装デザインを手掛けている山内陸平をはじめ、近畿車輛、近畿日本工機(現・近鉄車両エンジニアリング)、五位堂検修車庫(工事総括部門)が参加し、約1年間の議論を行ったうえで上述のコンセプトを設定し、改造工事に着手した。
改造工事は高安検修センターにて実施されたが、規模の大きい改造であるため、最初に施工される30201Fのみ近畿車輛徳庵工場まで移送の上、メーカーによる協力の下、綿密な工事を行った。
リニューアルに際し、愛称を「ビスタEX」に変更した。EXの由来は下記の単語の接頭語である。
Expectant(期待の)
Exciting(興奮する)
Excellent(優秀な)
Exceed(凌駕する)
Expansive(広々とした)
外観
先頭車前面の行先表示器は、細くなった帯幅に合わせる形状となり、「特急」ロゴが省略された。10100系から流用した主制御器を装備する30206F - 30210F、30214Fについては12200系や18400系の廃車発生品に交換している。T車出入台横には20000系に準じたVISTA CARのステンレスロゴタイプが貼り付けられた。また、Mc車正面右側にはVISTA EXのロゴタイプが貼り付けられた。
2階建中間車は2階部分を新製し、天井部分と床部分をかさ上げ、側窓は従来ハーモニカと称された小窓が連続していたところを、天井部の明かり窓と一体化した曲面ガラスに取り替え、また縦さんを黒塗装している。この改造により、中間車の車体断面寸法を20000系「楽」に準ずる横2,800 mm×高さ4,140 mmとしたため、外観も「楽」に近いものとなった。
塗装は従来のアスカオレンジをベースにネイビーブルーの帯を引き続き採用したが、従来T車に配していたVカットラインはMc車の連結面寄り側壁に変更し、ブルーの帯の上にエレガントホワイトの帯を追加した。また車体裾部はエレガントグレーの帯を配した。Mc車のT車寄り側面には、志摩スペイン村のキャラクターが描かれている。
竣工時より母線引通しがあった30214F・30215F以外は編成内に母線を新たに引通し、母線過電流継電器を設置したうえで、Mc車の運転台側のパンタグラフを撤去し、連結面側1基搭載とした。パンタグラフの母線引き通しは保安上の理由もあり従来は30 m以内となっていたが、これが50 m以内に緩和されたことから可能になったものである。車体更新前はパンタグラフが接近しすぎるという理由で、賢島寄りには他系列編成の増結が出来なかったが(大阪・京都発着編成の場合)、この改造により増結が可能となった。また、Mc車海側の歩み板(ランボード)の長さが変更され、30202Fから30204Fまでが車両全長に渡り、30205F以降はヒューズ箱付近でカットされた。また、30201Fのみランボードは無改造とされた。山側はこれまで通り、短めのタイプである(運転台側ランボードは撤去)。
原型車ではMc車とT車の屋根段差が激しかったが、リニューアルに際してT車の屋根がかさ上げされたことに伴い、編成全体の一体感を出すために大型のカバーを取り付けた。
客室
2階客席床部のかさ上げにより客室末端部の通路段差が解消され、あわせてシートピッチの変更(980 mmから1,000 mm化)と車端部の固定式座席を撤去した。また、モ30200形の化粧室スペース増強によって車端部の固定式座席1列分を撤去し、階下席を除き、編成内全ての座席が回転可能となった。これにより編成定員は、272名から252名に減少した。
2階部分と平床車のシートは背ずりを22000系のものに類似したタイプに交換、モケットはオレンジ系のナハンラ・オーラ(オレンジ色の波)とグリーン系のヴェルデ・オーラ(緑色の波)と名付けられたものを採用して、これをランダムに配置した。階上室がオレンジ主体、先頭車がグリーン主体である。リクライニング機構は全車フリーストップ式に統一された。階下席についてはアルコ・イーリスと名付けられた横縞の入ったパープル系のモケットを採用し、座面や背ずり等も全面的に変更された。その他は全車において内装のカラー変更やカーテン留め具の採用も行われているが、Mc車への間接照明の設置はされず、また運転台寄りのドアは改造前の全面ガラス製の素材をそのまま流用した。
T車出入台のエントランスホールは、空間の広さをさらに強調するデザインを採用した。階下から階上に貫くプランタボックスを配して、そこに観葉植物を置くことで、エントランスホールにそびえたつ木をイメージした。さらに、天井に走る横線は「空」をイメージしている。
トイレについては、モ30200形は洋式と男性用小便器ブース、洗面所の組み合わせに変更された。モ30250形は従来通りだが、インテリアが一新された。デッキは21000系に倣ってダウンライトでまとめた。
2回目のリニューアル
2010年4月から2012年3月にかけて全編成に2回目の車体更新(B更新)が行われた。
外観
エクステリアは乗降口の雨樋取付と車体連結部の転落防止幌設置と行先表示器のLED化のみとなっている。
客室
インテリアは海をテーマとして航海に出る時の期待感と躍動感を表現した。T車階下席は3-5人が同一行程で利用できる「グループ専用席」とされ、ヨットのキャビンをテーマとしたものに変更され、大型の天然木仕様のテーブルを新たに設け、入口にパーテーションも設けた。Mc車とT車階上席は22600系に準じたゆりかご型座席に交換された。座席表布はMc車を赤、T車を青として背ずり部にメッセージ柄を入れて若々しく、楽しいイメージを表現した。メッセージとは「LIMITED EXPRESS VISTA CAR BON VOYAGE」(BON VOYAGEは、これから楽しい旅行や冒険に赴くにあたっての挨拶「道中ご無事で!」「ごきげんよう!」の意味)である。ただし、30201Fは階下席の試作車要素があったために車内設備も他編成と大きく異なり、座席はB更新前を踏襲しており、内装材の新品交換に留まっている。
モ30250形は喫煙車の設定があるため、座席背面と側壁に収納式の灰皿が設けられた。トイレは22600系や26000系更新車に準じた男性専用の小便器と男女共用の温水洗浄便座の洋式トイレに改修され、モ30250形の和式トイレは洋式化された。
B更新に伴い、編成定員はA更新時から4名減って248名、自重は中間車のみ1両につき1 t減となった。
近鉄では、22000系のリニューアルを皮切りに、2016年以降に保有する汎用特急車両の塗装変更を発表し、本形式でも塗装変更の対象とされ、2016年6月から2018年までに全編成の塗装変更が完了している。Mc車の塗装塗り分けは12410系12413FのB更新の際に塗装変更されたものに準拠しているが、ダブルデッカーの中間車は本系列独自の塗り分けとなり、Mc車前面の「VISTA EX」エンブレムは撤去された。また、塗装変更に並行して車体前面窓の助士側に赤字の白文字(英文字併記)によるステッカー仕様の特急表示が従来塗装車も含めた全編成にて行われた。
2020年4月1日施行予定の改正健康増進法に対応するため、2016年から2019年3月にかけて本系列の喫煙室設置工事が行われた。設置場所はモ30250形で、これに伴い、座席背面と側壁備え付けの灰皿を全て撤去し、喫煙室と反対側の側面窓は封鎖されたが行先表示器の位置は設置以前のままであり、乗務員室扉の交換は省略されている。
営業運転は同年12月30日より暫定ダイヤで運用開始し、初日は近鉄難波 - 賢島間2往復、京都 - 賢島間2往復、近鉄名古屋 - 賢島間2往復であった。31日には伊勢方面の越年特急にも使用、翌年1月5日より通常ダイヤにて運用を開始した。また名阪甲特急にも片道1本ながら30000系運用が設定された。時刻表には本系列充当列車の全てではないが、Vマークが表記される。
ウィキペディアより
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